菜食コンサルタントの山﨑由華さんが描く、ヴィーガンがデフォルトの社会
「世界に広げようヴィーガンの輪」をテーマに、ヴィーガン・プロフェッショナルの方々から、ヴィーガンライフに役立つヒントやお知恵をいただくリレーインタビュー。5回目は、菜食コンサルタントの山﨑由華(やまざきゆか)さんです。
山﨑由華・profile
1996年東京生まれ。2020年より、菜食コンサルタントとしてヴィーガンフードの商品開発、菜食栄養学の講義・登壇を行う。また、菜食を実践したいと思う人が安心して気軽に取り入れられるように、おうちでつくれる簡単レシピ、心地よい暮らしについてもSNSで発信している。
目次
コンサルタント目線でみた日本の現状
そいみん:冷凍ミールや調味料などの開発、企業向けの菜食アドバイスなど「菜食コンサルタント」として活躍されていますが、今の日本のヴィーガン市場や現状を、どんなふうに捉えていらっしゃいますか?
山﨑:私がヴィーガン生活を始めた2016年頃に比べると、ヴィーガンという言葉の認識は随分アップしたなと感じます。
例えば、カフェやレストランに行ったときに、いちからヴィーガンについて説明しなくてもよくなりましたね。
自分自身も知識が増えたことで、ヴィーガンオプションがメニューにない店でも、具材の一部を抜いてとお願いすれば、ヴィーガン仕様に変更してもらえるかもしれない!という想像がつくようになりました。
そいみん:お店側も、臨機応変に対応しようという意識に変わってきたんですね。
山﨑:とはいっても……私がカナダ留学して栄養学を学んできた頃の環境、どこの店にも、ヴィーガンメニューはひとつふたつある、ヴィーガンがひとつの食の選択肢となっている環境には、程遠いですけどね。
そいみん:2016年に、まだ日本は追いついてないってことですか!それは、問題ですね。
山﨑:カナダは多民族国家で、宗教やライフスタイルが多種多様な人々の集まりなので、そもそも日本とはバックグラウンドが違いますから、仕方ないんですけどね。
日本では、「違ってあたりまえ」という思想や考え方が根付いていないことが、ヴィーガン認知が遅れる原因のひとつではないかと思っています。
ヴィーガンになるべくしてなった山﨑さん
そいみん:YouTubeやnoteの発信をみますと、山﨑さんは、栄養士の勉強を始める中でヴィーガンのことを知り、今のような菜食に関わるお仕事に進まれたそうですね。
山﨑:栄養学を学びたいと思ったのは、食に関わる仕事をしたいと考えたから。ほかにも、化学や建築などにも興味があったのですが、小学生くらいの頃から、地域の食文化やレシピ、料理にも強い興味がありました。
栄養学を日本でなく、「ハラール」や「ベジタリアン」など、様々な食のスタイルが受け入れられているカナダの大学で学んだという偶然が、ヴィーガンに出会うきっかけになりました。
仲良しのグループの中でも一人一人の食の主義が違って当たり前で、ヴィーガンライフに移行しても人間関係で苦労することはありませんでした。
そいみん:もし、ずっと日本にいたら、ヴィーガンになっていなかった?
山﨑:可能性はありますね。動物性食品を含めて、バランスよく栄養を摂ることを推奨する日本の栄養学の考え方に収まっていたかも。
そいみん:具体的には、ヴィーガンや菜食のどんなところに価値を見出されたのでしょうか。
山﨑:栄養学の教本などでよく見かける、食事の望ましい組み合わせや量をイラストでわかりやすく示したバランスガイドがありますよね。
それを授業で見ていたときに、動物性食品の欄を外しても、栄養的には十分に健康でいられるのではないかと気づいたんです。
食品産業の構造や実態も含めていろいろ調べていくうち、植物性の食品だけでも必要な栄養素は摂れることを確信したので、お肉もお魚も大好きだった私ですが、そこから菜食に移行しました。
そいみん:カナダは、とてもヴィーガンフレンドリーな環境なのですね。しかし日本でヴィーガン生活を始めるとなると、状況は全く違ってきますよね?
山﨑:当時は、日本でヴィーガン生活についての情報が少ないどころか、ヴィーガンという言葉を知っている人もほとんどいなかったんです。健康的なヴィーガンの食事の取り方がわからなかったり、人付き合いも大変という声ばかりでした。
日本でヴィーガン生活をしている人が、もっと楽しく心地よく暮らせるようにという思いで、大学在学中にYouTubeを通して等身大のヴィーガン生活の発信を始めたのが現在の活動の始まりです。
正しい栄養の情報、見分け方は?
そいみん:誰もが正しい情報を知りたいと思いながらも、視点を変えれば正解が変わるように、なかなか難しいものです。どんなことに注意して、情報を得ればいいのでしょうか。
山﨑:一般的に、管理栄養士になるには数年の勉強や学士号、国家試験も受けなければなりません。また、栄養素についてだけでなく、私たちがいただく食材がどのように作られているのかや、農業がもたらす環境への影響、現代食の文化的・歴史的背景についても学びます。
まずは、専門家の意見の中で、ご自分が共感できたり、信じられる情報を参考にするのもひとつです。
いま、多くの方が自由に情報を発信できる時代ですが、誰かの話をうまくまとめたものよりも、資格や実績のある専門家の意見のほうが、より価値があるといわざるをえません。
そいみん:英語が理解できない場合は、研究論文を日本語に訳したものでないと内容がわからない、もしくは、正しく訳されていないことも多々あるわけで、これは一般的にはハードルが高いでしょうね。
山﨑:本格的に栄養学を学び、学術論文から情報の正確さを読み解くことができるのが専門家の強みでもあるので、私もそのバックグランドを生かし、信頼のできる情報を提供したいと考えています。これからも日本でヴィーガンライフを選択する人や、日本のヴィーガン市場を作りあげていく企業のサポートができたら良いなと思っています。
そいみん:専門家の意見の中でも、いろいろな意見があるわけで、そこは、誰の言うことを信じるか、最終的には個人個人の判断になるわけですね。
山﨑:栄養学とひと口に言っても、複雑な学問なんですよ。さらに、人はみんなそれぞれ、生きてきた環境が違い、世代が違い、ヴィーガンに対して日本と海外のように意識にも大きな違いがあります。
表からは見えない世の中のシステムや事情というのも、食の世界だけでなく、どんなことにも存在しますから。
菜食中心に移行するコツを教えてください!
そいみん:菜食メインの生活にしたいと思った時、何をどう変えていくか、優先順位はあるのでしょうか。
山﨑:例えば、週一だけ、朝食だけ、ランチタイムだけなど自分が取り入れやすいタイミングや頻度から菜食を始めたり、友人や家族との食事の時はヴィーガンを貫くことが難しい場面も多いので、まずは自分で料理を作るときだけは菜食にしてみるのがおすすめです。
また、少しずつ動物性食品を植物性食品に置き換えていく方法もあります。新しくお肉を買うことは控えるようにし、大豆ミートや豆類、キノコやナッツ、シードに置き換えてみるんです。
乳製品については、牛乳を豆乳・アーモンドミルク・オーツミルクといった植物性ミルクに置き換えるだけで簡単ですし、チーズやヨーグルトも最近は植物性のものが一般的なスーパーでも手に入ります。思うよりも楽に移行することができますよ。
そいみん:まずお肉を止め、次に卵を止め、牛乳を止めてみる……といった感じで段階的に進めるとカラダへの負担も少なく、無理なく続けられそうですね。
山﨑:あくまで私個人の考えですが、ヴィーガン生活にしても、他の習慣にしても、我慢をしないといけないものは続きません。まずは、自分がどのくらい菜食を取り入れるのが心地いいのかを自問自答しながら始めるといいでしょう。
ヴィーガンがあたりまえに選択できる社会へ
そいみん:これまで、snsやメディア、講演を通じて、ご自身の体験やヴィーガン情報の発信を続けてこられましたが、今後の活動や展望は?
山﨑:ヴィーガンは、日本では今のところ、まだまだトレンドやファッション的な捉えられ方であり、新しいカルチャーや生き方として根付いてはいません。もともとは、菜食ベースであった国なのに、逆輸入的にプラントベース食品や菜食ブームが起こっています。
これまで、広く消費者や個人に菜食の素晴らしさを発信してきましたが、最近はもっと違うアプローチが必要なのではないかと感じるようになりました。ですから、私は次のフェーズへと進んでいこうと考えています。
そいみん:次のフェーズとは?
山﨑:ヴィーガンや菜食があたりまえになる社会や環境づくりを、企業と一緒に作り上げていくことに力を注いでみたいです。今はまだ、ヴィーガンは気持ちや生活に余裕がないとできない、と考える方が多いです。
また、ある程度の知識がないと、実際にヴィーガン生活が成り立たないですよね。そこを改善したいんです。つまり、ヴィーガンについていろいろ考えなくても、デフォルトで生活の中にヴィーガンという選択肢がある社会です。
そいみん:それはつまり、スーパーの棚に、一般商品とヴィーガン商品が同等に並ぶようなことでしょうか?
山﨑:そのために、企業向けのセミナーやイベントを開いたり、商品開発をしたりする機会を増やしていこうと思います。せっかく、消費者がヴィーガンに興味を持っても、買う商品や買う場所がないとなると、認知もファンも広がるはずがないので!
そいみん:確かに!需要と供給のバランスや、SDGsの「つくる責任、つかう責任」にも繋がりますね。社会や地球環境、私たちの幸せや健康に良いものが一体となって、日本中にヴィーガンが広がってほしいです。
山﨑:企業だけでなく、教育にも力を入れたいと考えます。Z世代がヴィーガンの理解に最も積極的ですが、それより若い世代、中学生や小学生のみなさんにも、教育の機会を作りたいです。
あるいは、そういった世代の子の意見を尊重する30代〜40代の親世代にも、情報が届くように工夫していきたいと思っています。
まだまだ日本では「菜食の人は我慢してそう、痩せていて不健康そう」といったイメージがついてしまっているのが実情で、私の活動を通してそれを払拭していきたいとも思っています。
山﨑さんの新たな挑戦
そいみん:お話をきいて、これからの未来、ワクワクしてきました。今後の予定がありましたら、教えてください。
山﨑:父親の育児支援を行っている斉藤圭祐さんと、菜食の栄養学をベースとしたスープ作りを学ぶ講座を企画中です。
斉藤さんから、二人の娘さんを持つ育児当事者として、もっと子どもやパートナーの体調&コンディションに合わせたスープを作れるようになりたいという相談を受けまして、現在絶賛企画中です。
あとは、商品開発ですね。ヴィーガンの情報が多くの方から発信されるようになった今、生活者のリテラシーだけでなく、企業リテラシーも向上させなくてはならないと強く感じます。
そいみん:ますます、大変なお仕事になりそうですが、より良い変化に期待しています。最後に、お友達をご紹介いただけますか?
山﨑:先日、YouTubeで対談させていただいた、「TOKYO VEG LIFE」のNatsukiさん。彼女は今、長野に自分でDIYで家を建て、ヨガをしたり、ストイックなヴィーガンライフを続けていらっしゃいます。ヴィーガンの方に役立つ話やヒントが聞けると思いますよ!
まとめ〈インタビューを終えての感想〉
「より多くの人に安心して菜食を実践してもらえるような提案をしていきたい」と笑顔で語ってくれた山﨑さん。ご自身の経験と栄養学視点からみたアドバイスは、ヴィーガンや菜食を目指す人、ヴィーガン商品を開発する企業にとっても、頼れる心強いものだと感じました。ヴィーガンの選択肢があたりまえになる日本を目指す彼女の活動や発信に、今後も注目していきたいところです。
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