【世界に広げようヴィーガンの輪】アスリートフード研究家・池田清子先生に聞く、自分との向きあい方
「世界に広げようヴィーガンの輪」をテーマに、ヴィーガン・プロフェッショナルの方々から、ヴィーガンライフに役立つヒントやお知恵をいただくリレーインタビュー。第二回目は、「ベジアスリート連載」でご登場いただいた、プロマウンテンアスリートの池田祐樹選手の妻であり、プラントベース・アスリートフード研究家の池田清子さんです。菜食の素晴らしさをはじめ、ヴィーガンを続けるためのメンタルやモチベーションについて、アスリートとそれを支える側の両方の視点からアドバイスをいただきます!
池田清子 (いけだ さやこ) 先生・profile
プラントベース・アスリートフード研究家、ビオトープ株式会社代表。プラントベースやホールフードを軸とした「健康的に強く美しくなる」食事の研究と発信を続けている。夫であり、マウンテンバイクプロライダーである池田祐樹氏と共に、自身もランニングや筋トレを中心とした運動を日々のルーチンとし、国内外で大会にも出場している。
目次
アスリートフード研究家という仕事
そいみん:2014年にプラントベースフードをご夫婦で始められて、その三か月後には、夫の祐樹さんがアメリカのレースで優勝。40歳を過ぎてもパフォーマンスを落とすことなく日本代表としてプロ活動を続けられていることは、スポーツに関わる人々に大きなインパクトを与えていらっしゃいますね。
池田:スポーツ選手が最大限パフォーマンスを生かすために大切なこと=健康の土台を整えること。結果を出すためには、まず日々の不調をなくす、体質を改善するには、プラントベース食が理想的であることを私達夫婦が体現しています。結果もしっかり出すことができ、多くの反響が寄せられています。プラントベースを軸にした食事によるウェイトコントロール、運動のアドバイスも含めて、アスリートの健康をサポートするのが私の仕事です。
そいみん:ズバリ、なぜ動物性食材よりも、植物性食材がおすすめなのでしょうか。
池田:昨今、炭水化物や糖質を気にされる方が多いのですが、もっと気にするべきは、動物性脂質。例えば血管内にプラーク (※) を作って血流を妨げたり、動脈硬化などを引き起こしたりする可能性があるからです。人の体は弱アルカリ性ですが、肉を食べると酸性に傾きます。それが原因で炎症を引き起こし、老化やガンにつながる可能性もあります。また、植物には動物性食品には含まれない食物繊維が豊富で、血糖値も上がりにくく、抗酸化作用も期待できます。菜食は、より健康的な体をサポートしてくれるのです。
※プラーク…動脈硬化などの時に血管内部にできる、偏平もしくは隆起したかたまりや斑点のこと。
池田家の普段の食事について
そいみん:菜食が体に良いと頭では理解できても、ジュージュー焼いてるお肉やステーキを見てしまうと、食べたくなる、ガマンがストレスになるという人が大多数ですよね。池田家では、普段はどのような食事をなさっているのでしょうか。
池田:動物性のものを単に抜くというだけではなく、植物性食材だけでも栄養が満たせる献立を意識しています。特に、自然栽培の野菜やホールフードを重視して、栄養を余すところなく摂ります。動物性食品をやめて、夫はぜんそくや高血圧、さまざまな不調から解放されました。体の土台がしっかりしていてこそ、栄養を効率よくエネルギーに変えることができます。動物を苦しめないことや、環境への配慮など、ヴィーガンの思想も大切にしていますが、菜食の可能性は夫婦で強く実感していて、もう肉食中心の生活には戻れない (戻る必要がない!) と話しています。
そいみん:ダイエタリーヴィーガンの方の多くは、ベジタリアンやマクロビオティック (以下、マクロビ)、プラントベースから徐々に移行されていますよね。池田家がプラントベースの食生活に切り替わったのは、いつ頃、どんなタイミングで?
池田:私自身は、もともとマクロビを取り入れていましたが、夫からプラントベースに変えたいと言われたのは2014年です。「やるなら効果を見る為にも、まずは半年間厳格に菜食にしよう」と決めて、相談のあった翌日から完全プラントベース食に移行しました。
そいみん:半年間も!ストイック!
池田:期間中にレース遠征もありました。定宿のご主人と女将さんに、恐る恐る食事を菜食にしてもらえるか相談したところ、ありがたいことに快く引き受けてくださいました。今でも利用時は対応していただいているのですが、宿のご主人は高血圧がきっかけで昨年プラントベース食を始められ、1〜2ヶ月で血圧が正常値になりました。薬を飲まなくて済んだと喜んで、今でも菜食を続けていらっしゃいます。私達夫婦も、生涯、プラントベースの食事を続けていきたいと考えています。
プラントベースの始め方
そいみん:世界に目を向けると、多くのプロアスリートがプラントベース食で結果を出しているニュースを耳にします。しかし、一般的には、とくに初心者がプラントベースの食事スタイルを実践するのは、なかなかハードルが高いように思うのですが。
池田:はじめから完璧にしようと思わなくていいんですよ。たとえば、3食のうち、1食だけプラントベースに変えるだけでも、3時間後の体内の血液の濁り方が違うということも研究でわかっています。
そいみん:えっ……た、たった3時間ですか??
池田:体は応えてくれます、驚きですよね。「今日は野菜がたくさん食べられた」とか「新しい食材を取り入れられた」とか、できなかったことよりも、できたことをカウントしていきましょう!
そいみん:具体的には、どんな菜食メニューを取り入れていけばいいのでしょうか。
池田:まずは普段作っている献立を植物性食材だけで作ることから始めると、ハードルが下がるのではないかと思います。たとえば、玄米の炊き込みご飯やピラフ。ニンジンやレンコンなどいろいろな根菜をたっぷり入れて、炊飯器で炊くだけで簡単。玄米は、白米に比べてビタミンやミネラルが豊富。おにぎりにして外出時のお供にしてもいいですね。
あとは、冬でも生野菜のサラダがおすすめ。葉物野菜や赤パプリカには良質な血液を作ったり、疲労回復に良い栄養素が含まれているので我が家では欠かせない一軍食材。野菜には熱に弱いビタミンCなども豊富に含まれているので、1日1回は加熱調理していない、生の野菜を食べることをおすすめします。
そいみん:池田先生の最新著書「カラダをととのえる 野菜のおいしい食べ方」(日東書院本社/2022月7月1日発売/定価1,540円) にも、池田家にかかせない食材やメニューが紹介されていますね。すぐにマネできそうです。前菜からデザートまでトータルな献立も、これ一冊でカバーできるのがうれしいです。
池田:アスリートの食事を管理する我が家に欠かせない、57の植物性食材と、なぜそれを選んでいるのか。その理由や、ちょっとした豆知識を楽しくご紹介できたらと作った一冊です。1食材に対して1レシピ、素材を生かす調理法をできるだけ簡単に、美味しく作れるようにご紹介しています。野菜や果物はその全体でバランスが取れている状態なので、過食部分はできるだけ丸ごと食べていただくと、栄養素だけではなく消化吸収やデトックスの面でもおすすめです。
野菜や果物は、どう選べばよいのか
そいみん:完璧を求めず、できるところから始めればいいことはわかりました。野菜を丸ごと食べるとなると、農薬の問題が気になりますが、オーガニックじゃないとだめなんでしょうか。池田先生は、どこで食材を購入されるのですか?
池田:スーパーに有機栽培のコーナーがあれば、そこで買うようにしていますが、すべてオーガニックにするのは大変ですし、なかなかほしい野菜が揃わないのが現実。慣行栽培のものも買いますが、できるだけ生産者の顔がみえるものや、どこからやってきたかがわかるものがいいですね。段ボールに入った野菜を遠方からわざわざ取り寄せるのは、CO2排出の問題などが気になるので、なるべく住んでいる場所の近くで調達しています。街はずれの無人野菜販売コーナーに立ち寄ったり、知り合いの農家さんから直接新鮮な野菜をわけてもらうこともあります。
そいみん:化学肥料や農薬を使う慣行栽培の野菜、たとえばリンゴやニンジンを使うときは、皮はむくんですよね?
池田:そこはね、どうするかそれぞれの選択だと思うのですが、私は丸ごと食べてます。さきほどもお話した通り、日頃から体の土台を作る目的でプラントベースフードを続けているので、解毒や毒素を排出をする機能もきちんと働いているのではという個人的な見解です。
そいみん:土台作りがなぜ大事なのか、そこなんですね!オーガニック野菜を食べれば健康になれるわけではなく、ちゃんと栄養を吸収できる体、毒素を出す力を持っていなくては、意味がないんですね。あああ、目からウロコ。
池田:そいみんさん、パクチーの根っこって、捨ててますか?実は、根っこがいちばん香りがあるんですよ。小松菜やホウレン草も、捨てるところがないんです。野菜のエナジーをすべて受け取る食事法こそが、私の推奨するスタイルです。
運動についても聞いてみた
そいみん:ご主人が、池田先生の日々のトレーニングメニューを決めてくださっているそうですね。どんな内容か知りたいです。
池田:週に5、6日は、筋トレやランニングを1時間以上はやってます。家の中でも「コレクティブ・エクササイズ」(トレーニングや日常の生活における体の不均等代償動作を修正する、運動全体の質を向上させる手法) を行っています。
そいみん:私、運動の知識がまるでないのですが、なにか簡単に取り入れられるエクササイズはないでしょうか。
池田:少し汗ばむくらいの運動を目指してみては。たとえば、ウォーキングは、ただ歩くだけでなく早足で歩くなど。少しキツイかなと感じるくらいの負荷が掛かることで、日常の動きだけでは得られない、筋肉の強化にも繋がります。また、歩く・走るといった運動は骨に刺激を与え、骨を強くする効果も期待できますし、日光に当たることは骨を形成するのに必要なビタミンDの生成にもつながります。
そいみん:ジムに通わなくても屋外に出て、まずはじんわり汗をかくくらいの速足散歩、お金もかからないし誰でもできますね!やってみます!
アスリートに聞く、物事を続けるためのマインド
そいみん:いいアドバイスをたくさんお聞かせいただいているのですが、正直、継続が一番難しい。アスリートの高いモチベーションの秘密、ぜひ教えてください。
池田:身近で夫を見ていると、一年先の目標 (たとえば、競技のスタートラインに立つ自らの姿) に向かって、やるべきことを細分化し、ひたすら目の前のトレーニングをこなしています。ひとつずつ、こなしていくことで、1年後にはベストな状態で競技に挑める。日々の努力で結果につながることが、もう見えているんですね。だから、迷いもあきらめもないみたい。
そいみん:未来から過去へ、逆回ししていくようなイメージですか?小さな成功体験を積み重ねていく、とも言えますが。
池田:そう、そんな感じです。途方もない山をいきなり越えることばかりを目指すのではなく、1年先、10年先、そこに到達するには、今何をすべきかをはっきりと意識して、ちいさな努力を積み重ねるんです。今日はこれをやる、明日はこれをやる、そうやって食生活も運動もモチベーションを保ちながら、少しずつゴールに近づけていけばいいのです。
そいみん:確かに、何事も簡単には変わらないし、時間がかかるものですよね。ヴィーガンになろうと決意しても、いっきに生活を変えることはせず、少しずつ取り入れていくのがカギなんですね。
池田:そうですね、環境も人それぞれですから。今日、自分ができたことにフォーカスしてみてください。
そいみん:沢山のヒントをありがとうございました。それでは、最後に、お友達をご紹介いただけますか?
池田:モデルやタレントとしても活動中の「ビーガン王子」ことアレックス・デレチさんにバトンを託します。
現在、コーネル大学のプラントベース栄養学コースで学び、エビデンスのある情報発信にも力を注がれている池田清子先生。肌もつやつやで、パワーあふれる池田先生とお会いして、野菜がますます好きになりました。今後も、池田ご夫妻の活躍に目が離せません。プラントベースの食生活でキャリアを歩んでいる、地球に優しいアスリート達が、べジ食やマインドセット、日々の挑戦などを発信するVegengers(べジンジャーズ) Vegengers Instagramアカウント:https://www.instagram.com/vegengers/ 、日々の食事や食材の使い方などを発信する池田先生の Instagramアカウント https://www.instagram.com/sayakitchen/ も要フォロー!